出発前日

8/21
前へ
/344ページ
次へ
唇に残る温かい感触に、気恥ずかしさと罪悪感に似た感情を覚える 僕は何なんだろう 整理のつかない頭を数回振り、雑念を振り払いながら自宅のドアを開けた 「ただいま」 『お帰り』の声がある筈も無い それが習慣となっているが、寂しくない訳ではない ―と 「あ……お帰りなさいませ」 くぐもった声ではあるが、間違いなく清美の声だ 我が家の住込み家政婦たる清美の存在を思い出し、声の方へと顔を上げる まぁ、お前だけでも迎えてくれる人がいれば…… 「清美、気でも違えたか?」 違和感だらけの清美の姿に、僕のコメカミは小刻みに痙攣する 「な、何の事でしょう?」 ―苦笑い 明らかに“今”見られてしまった事の迂濶さを悔いてる表情だ 「そうか…… どうしても僕に皆まで言わせたいらしいな」 紅玉のような僕の瞳は鋭利な刃と化し清美を突き刺す 「一体…何の事やら…」 既に尋常じゃない発汗作用の働きを示している清美の顔 「ならば問うが…… 何故ウチの制服を着ている?」 見慣れた我が校の制服に身を包んだ清美がビクンと体を震わせた いや、そんなリアクションされてもね…
/344ページ

最初のコメントを投稿しよう!

398人が本棚に入れています
本棚に追加