序章

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「行ってきます」 僕の声が虚しく響く なんだろう? 父の時とのこの格差は ドアを開け、秋晴れの日射しを隠すように黒い日傘を開いた そして玄関脇に転がるメイドを一瞥し 「行って来るぞ」 せめてお前くらいは見送れと視線で訴える 「い…、行ってらっひゃい」 良くできました 少しばかり溜飲を下げた僕は、父から貰った千円の事を思い出し更に気分が良くなる 「何を食べようかな?」 まだ静かな住宅街 ゴミ捨てに向かう主婦や、出勤がてらに無理矢理持たされただろうサラリーマンがチラホラ見える ヴァンパイアと言えど、秋の澄んだ空気は嫌いじゃない 気温はやや低いが風は無く、スッキリとしていて清々しい 「あら、おはよう」 ご近所様である林田さんが空手着姿で挨拶をしてくる 「おはよう もうMBXはやめたのか?」 何故、もう黒帯なんだろうか 「最近物騒じゃない? だから護身術の一つくらい身につけておかないと、と思って」 そして一振りして見せた正拳突きは、護身用というには行き過ぎた速度だった ――林田 久美子(ハヤシダクミコ) タイプ【アグレッシブ主婦】
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