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陽は残光のみを空に照し、僅かの後に訪れる帷を前に茜色の世界を作り出す
吹く風は冷え冷えに、吐く吐息にも色を付けそうな程白々と、季節の移り変わりを感じさせた
直線40メートル弱
母自慢の手入れが行き届いた我が家の庭は広く、先に見える梅の木が小さく見える
「ルールは言った通り妨害自由
どんな手段を用いても、先にあの枝に触れたら勝ちじゃ」
横一線に並んだ三人が見つめる梅の木
「妨害は…」
「……自由」
その言葉が意味するモノを知らないものはいない
「この石を投げ、下に落ちた瞬間がスタートじゃ」
小石を手で遊ばせ、爺ちゃんは不敵な笑みを見せる
余程自信があるのだろう
「僕を去年までの僕とは思わない事だ」
僕にはヴァンパイアの能力を鍛え続けてきた自負がある
「私もバストが3㎝アップ…」
「一緒にするな」
僕の血の滲む努力を部分的脂肪の増加と同列に扱わないで欲しい
「準備は良いな?――では」
―ヒュン
茜空に舞い上がる小石
心の準備もそこそこに、運命の賽は投げられた
――勝つ!
ゆっくりと放物線を描く小石に集中しながら、精神を研ぎ澄ませていく
闇を――力を――
ブワッ!
足元から漆黒の風が逆巻く
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