出発前日

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――速い!でも―― 四足歩行の動物が俊敏なのは当然で、母から音速の拳を受け続けてきた僕なら 「予告通り蹴飛ばしてやる!」 反応出来ない速度ではない 足元に迫る黒猫に、ドンピシャリのタイミングで蹴りを出す サッカーボールよろしく飛んで行く黒猫は塀を飛び越え場外ホームラン の、筈が ―タタタン! 体型に似合わぬ軽やかさで黒猫は僕の“蹴りを駆け上がった” ウソだろ? そんな反射速度が そんな身体能力があっていいのか? 僕はただ呆然と、目の前に浮かぶ黒猫を見つめた 紅の瞳と金色の瞳が相対する ニヤリ 僕には 黒猫が笑ったように見えた そしてあろうことか、黒猫は弓引くが如く右の前足を引き 「ニ゙ャン!」 放った ―ベキッ! 「ぶるぉっ」 激しい痛みと回転する視界 僕は竹トンボのように舞い、そして落ちた 「申し訳ございませんご主人様 しかし、これはルールに従った正当なものですので…」 目眩に歪む視界に映ったのは、いつの間にか立ち上がった清美の姿 「…き……貴様…」 死霊術を使った事はどうでもいいんだ… 「では、枝に触れさせて頂きますね?」 僕の前を通り過ぎる清美の足 お前の勝ちは認めよう しかし、これだけは言わせろ 「その猫……強すぎないか?」
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