43人が本棚に入れています
本棚に追加
あの結婚式から一年たったある日、王子と姫はあの時と同じ船に乗り、同じように明るい月明かりの下で、豪華な宴に酔いしれていた。
満月の優しい光と松明の激しい熱は、王子の語りをさらに熱くロマンチックにするには充分で。
今宵も姫との出会いを唾も飛び散らんばかりに喋り狂っていた。
『・・・今日、一年前と同じドレスなの、ご存知ですか?』
王子は夢見る瞳のまま、出会いを語る。
『・・・一年前と比べて、痩せてしまったこと、ご存知ですか?』
王子が、姫を見つめる事は、すでにない。
何故なら、あまりにも出会いの姫の素晴らしさを讃えるうちに、目を閉じればその時の彼女を想像出来るようになってしまったから。
『・・・今日、指輪をしていないの、ご存知ですか?』
王子は姫を見る事なく、姫への愛を周辺にばら蒔く。
姫は、ただ、微笑んでいた。
濃紺の空に浮かぶ満月は大きく。
しかしながら、暗く黒い海の広さにかなうはずもなく、その一部に自身を写して、悲しく揺れている。
あたりに響くは、波の音、王子のうかれた声。
消えたのは満月の涙。
最初のコメントを投稿しよう!