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何かが、姫の肩に触れた。
ひやっと冷たい、何か。
驚いて振り向くが、後ろに広がるのは、漆黒の海ばかり。
姫は怪訝な顔で、触れられた肩に手を置いて、気付いた。
『・・・濡れている?』
この満月、雨の訳がない。
ましてや、波しぶきが飛ぶような海でもなく。
不思議に思う姫は、王子に聞いてみようと口をひらくが、阿呆のように懸命に愛を語っている彼を見て、タイミングも聞く気もなくなってしまった。
(・・・クスクス・・・)
『・・・?』
(楽になればいいのに・・・クスクス・・・クスクス)
「・・・っ!誰!?」
急に騒いだ姫に、客人達は驚き、心配の声をかけてきた。
まさか変な声が聞こえたとも言えず、姫は大丈夫と気丈に振る舞う。
ようやく事態に気付いた王子が、一瞬、姫の方を振り向くが、何もないと分かるとまた、客人達に熱弁をふるいだした。
姫は、微笑んで王子の話を聞くふりをしながら、先ほどの声について考える。
が、考えても分かるはずもなく、不安でたまらなくなる。
王子は、そんな姫の苦しみに、また、気付かなかった。
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