第一部ユエの泉

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    ヤナンは私たちに聞かせたい物語があるみたいだ         聞いてみようではないか                            大樹の下にその泉はあった。   大きな泉である。   古来よりその泉は人々に重要視されていた。   王朝もその泉を愛し、民にも水を分け与えていた。     しかし   その泉は夜になると、まるで水中にもう一つの世界が現れたかの様に、真っ暗になり、無数の星が瞬く泉に変わった。   まるで覗き込んでくれと言わんばかりに多くを魅了するのだ。     なんとも不思議な泉である。     ある日、一人の若人が泉に捧げる花を一輪手にしてやってきた。   水へ手を浸し、花を捧げると木々がざわめき始めた。     『ああ、人々はまだ気付かないのだろうか!』     若人は顔をあげると木々に問うた。   『一体何に気付くと言うのかね?』   すると鳥が歌い始めた。  『神秘に惑わされたならおしまいだ。全ては太陽神が知っている。』     若人は不思議に思い、天を見上げた。     『太陽よ!太陽の神よ!私は一体何に気付いていないのだ?』     ふと 彼が視線を泉へ戻すと、そこに泉はなく、あるのは木々だけであった。   彼は不思議に思い、一度王朝へと戻った。       けれども   若人の目に映ったのは廃れた王朝だけであった。    太陽は言った。       『所詮は死人の幻想に過ぎなかったのだよ。』          
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