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タクシーから降りると、そこは駅の近くにある、名の通ったホテルだった。
秀人はタクシーでの支払いを済ませると、先に降りた奏子の腰に手を回し、フロントでチェックインをした。
「いいのですか?外泊なんて、社長は許してくださるのですか?」
「あのね、奏子ちゃん。俺をいくつだと思ってんの?いいかげん心配するほうがおかしいの。」
「ご自分のお子さんなんですから、いくつになっても心配はされますよ。」
「・・・・・。」
社長の秀人への溺愛っぷりは社内でも有名な話だ。
「そんなことよりもさ…」
秀人がエレベーターのボタンを押しながら言う。
「奏子ちゃんこそいいの?入社早々上司の俺に食われちゃっても」
意味深な表情でエレベーターの扉を見つめながら問う。
「…何か問題でもございますか?」
一瞬、左の眉がピクリと反応したものの、冷静な態度は崩さずに続ける。
「私も特定の相手などはおりませんし、お互いに独身です。例え誰かに知られたとしても、大人の付き合いですから、問題ないかと。
それとも、専務は特定の方がいらっしゃるのですか?」
エレベーターの到着を知らせる音と共に、開いた扉の中に二人で入りながら秀人に目をやるとニヤリと意地の悪い笑みをこぼした。
「俺ははじめから奏子ちゃん一筋だけど?あと、ちょっとだけ顔が赤くなってるのは気のせい?」
エレベータの中には二人だけというのをいいことに、奏子の腰にあった手の力を強め、体をさらに密着させた。
奏子の体温も、気付かないうちに上昇していたようだが、体が密着してしまったことで自覚できるほどになってしまった。
「奏子ちゃんって、こういうのにもっと慣れてると思ったんだけど?」
やっとのことで、エレベーターが行先の階につき、少しだけ手を緩めた秀人は、優しく奏子を誘導した。
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