侍立異端

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桃香の言葉を聞いた時、絶望しながらも懸命に奮い立った愛紗の姿を思い出した。   「いいじゃねえか、一刀…乗ってやってもよ…」   壁にもたれていた我導が言い放つ。   「どの道お前もこの後で放り出されちゃあ、野垂れ死にするだけだろうよ…なら、これもひとつの助け合いだろ?」   言わんとする事は解る、しかし俺は侍…決して天の御遣いなどではない、単なる人なのだ。 力になりたいとは思う、だが…   「おいおいおいィ…お前はいつからそんなに器が小さくなったんだ?桃香が言っただろう、俺やお前が居なければ村は危なかった…ちゃんと評価してくれてるじゃねえか、真名まで教えてお前を担ぎ上げる決心までしてるんだぜ…」   この魔物野郎…言ってる事がいちいちもっともなのが腹立たしい、俺だってそこまで気にしちゃいない。 彼女達が、大丈夫なのかと心配なだけだ。   「弱きを助け強きを挫く…それが侍、か」   いつの日にか師匠が口にした言葉だ。 真に豪の者ならば弱きを助け、強きを挫く…その機微を悟り、何に刃を向けるかが解るものなのだ、と。   深く深呼吸…よし、腹は決まった。   「分かった、乗ろう…俺が御輿に担がれよう、だが勘違いするなよ、俺達は主従ではなく仲間だって事を…」   時代を超えたのか…世界を超えたのか…それは分からない、分かるのはここが史実に残る世界であり、史実そのものとは異なる世界…『外史』だという事。   先の事は分からない、だが―― この誇り高い少女達と共に行こう、彼女達が御遣いとしての力を望むならどこまでも天の御遣いを演じよう。   彼女達が危機に瀕したならば命を賭けよう、彼女達が弱い民草の盾となるなら、俺がこの身を彼女達の盾として、そして剣として戦い抜こう…   俺は静かにそう決意した…
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