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しかし…
意外に険しい道を歩き続けながら考える、趙雲子龍…とはいつぞや読んだ三國志という物語の人物ではなかったか…
あのような女性だったとは意外だ…すっかり男性だとばかり思っていたが、なかなかどうして…
では俺はその三國志という物語の中に何故かは分からないが放り出された、という事か?
夢や幻にしては大地を踏みしめる感覚も、空気の味も、風に混じる砂の肌触りも妙に現実的すぎる。
幻術を使う輩とも死合った事はあるが…その時の感覚ともまた違う…ううむ…
あれこれと考えている内に恐らく趙雲が言っていた村が見えてきた…が。
様子がおかしい、明らかに料理や夜の明かりを灯す様な規模では済まない火の手が上がっている。
自然と早足に、気が付くと走り出していた。
村に近くなるにつれて聞こえてくる雄叫びと悲鳴、子供の泣き声…俺は全速力で村への道を蹴った。
「桃香様、ここは鈴々と私が抑えます!!桃香様は子供達を連れてお下がりください!!」
「う、うん!愛紗ちゃん達も程々にしてここから逃げなきゃダメだよ!!」
数人の子供を庇いながら後退する桃香を見送りながら愛紗は悔しさに拳を握り締める。
三人では守れる者に限界がある…その事実が目の前に広がる無残な姿を晒す集落。
心を締め付けられる感覚が目の前の景色を曖昧にしようとする、必死に戦い、力を持たない者達の盾となり剣となることを誓った。
だが現実は甘くない、たかだか三人の力ではこの小さな邑すら守れない。
どんどん視界がぼやけていく、手にした武器を投げ捨てて顔を覆えば全てが夢だった事になればいいのに…
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