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その人は、倉持と名乗った。呉服屋さんの若旦那らしい。ちょっとミリタリー入った服装からはとても想像できない職業だ。絶対、プロレスラーの方が似合う。彼に訊くと、友人たちからもよく言われるらしい。やっぱり。
それからあたしたちはタクシーの中で他愛ない話をした。移動手段が全くないと言うと、自分でよければ酔っ払ってなくて暇な時は車で送るよ、と言ってくれた。この町に来てから、みんな悪びれもせずに飲酒運転するので、珍しく真面目な人だなぁと思った。でも、それ以上でもそれ以下でもなく、彼はあたしの好きなタイプでもなかった。
お互いの連絡先を交換して、マンションの前で倉持さんと分かれた。彼一人を乗せたタクシーはあっという間に暗闇に消えていった。ずいぶん疲れる週末だった。
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