序章  息苦しい夜は

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「清水さんって、何歳ですか?」   なんでそんなことをこの状況で? という顔をしながら、多分あなたの9歳上ですよ、と彼は答えた。29歳か。もっと若いかと思った。電車がガタンと揺れて、あたしはヨロヨロと体制を崩す。   「金曜日の夜は混んでますね」   清水さんは、息苦しそうに言いながら、あたしの腕を掴んで助けてくれた。かなり蒸し暑い車内で、あたしの腕は汗ばんでいる。電車はお構いなしにガタンゴトンと揺れ続けて、酒臭さと汗臭さの混じり合った空間で四方八方から押され続けた。清水さんは、そんな姿を見かねたのか、自分も苦しいだろうに、あたしの顔の周りを腕で囲むようにして守ってくれた。   「ありがとうございます…」   言って見上げた彼の顔があまりにも近くにあったので、あたしはドキッとした。
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