第6章 からだからだ

10/10
前へ
/271ページ
次へ
その人は、倉持と名乗った。呉服屋さんの若旦那らしい。ちょっとミリタリー入った服装からはとても想像できない職業だ。絶対、プロレスラーの方が似合う。彼に訊くと、友人たちからもよく言われるらしい。やっぱり。   それからあたしたちはタクシーの中で他愛ない話をした。移動手段が全くないと言うと、自分でよければ酔っ払ってなくて暇な時は車で送るよ、と言ってくれた。この町に来てから、みんな悪びれもせずに飲酒運転するので、珍しく真面目な人だなぁと思った。でも、それ以上でもそれ以下でもなく、彼はあたしの好きなタイプでもなかった。   お互いの連絡先を交換して、マンションの前で倉持さんと分かれた。彼一人を乗せたタクシーはあっという間に暗闇に消えていった。ずいぶん疲れる週末だった。
/271ページ

最初のコメントを投稿しよう!

404人が本棚に入れています
本棚に追加