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やはり今日はついていない。
苛々しながら、目的地の餌場を散策しようとした時、背後から声がした。
「あの、すみません」
頭をもたげて振り返ると、背中の真ん中に緑色の小さな餌がちょこんと乗っていた。
先程の違和感の原因はこれだったのか。
「轢かれそうになったのでお背中お借りしました。ありがとうございました」
アマガエルが震えながら謝辞を述べた。
こいつは頭がおかしいのだろうか。私が天敵だと知らないはずはない。
「お前は阿呆か。私が何者か知らない訳はないだろう?さっさと逃げれば良いものを、何故わざわざ礼を言う」
舌をちろちろと出しながらアマガエルを見ると、そいつは更に震えながら声を絞り出した。
「あの地面で死ぬのが本当に嫌だったのです。ですから、どうしてもあなたに御礼が言いたいと思いまして。本当にありがとうございました」
アマガエルは私の背中から飛び降り、私の正面に来ると深々と頭を下げた。それからじっと私を見上げる。
「あの場所以外で死ぬのでしたら、どこでも構いません。さ、どうぞ僕を食べてください」
小さいくせに気骨のある奴だ。と、つい思ってしまった。そして、こいつがあの場所では死にたくないと言った思いが痛い程伝わって来た。
私と同じ思い。
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