前編

4/8
80人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
  「ささ、どうぞ遠慮なさらずに」  アマガエルは黒い瞳でじっと私の目を見てくる。  私はもうこいつを食えない、と確信してしまった。 「そこまで言われると逆に食う気が失せる。それにお前みたいに小さな奴は食いごたえがなくてつまらん。さっさと行ってしまえ」  顔を近付けて口を大きく開けながら凄んだが、そいつからは怯えの色が消えていた。 「なんてお優しい方なんでしょう! 是非とも恩返しがしたいです。僕に出来る事がありましたら、何でも仰しゃってください!」  やはりおかしな奴だ。込み上げてくる笑いを押さえながら威圧的にアマガエルに答えた。 「ほう。そこまで言うのなら、お前の仲間が一番集まっている場所を案内してもらおうか」 「な、仲間を売るような事は出来ませんっ! 僕だけでしたら、全然構いませんけど!」  アマガエルはそう叫ぶと私の首元にピタッと飛び付き、よじ登ってきて必死に私の口の中に入ろうとした。  その反応が面白くて、今日は一日こいつで遊ぼうと思った。  小さな餌はまだ懸命に私の口を開けようとしている。  
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!