ゼロの物語

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六月二十五日 放課後 「アスカ~。一緒に帰ろ~?」 担任が教室から出ていき、ハクがこちらに駆け寄ってきた。 「悪りぃ、今日は部活で遅くなるから先に帰っててくれ」 普段、何の活動もしない演劇部が今日はミーティングをするらしい。 まぁ、サボってもいいんだけど、久しぶりに出席してみるのも悪くない。 「え~!?今日は一緒に帰る約束してたのに~」 ハクが手足をジタバタさせ、駄々をこねる。 「ゴメンゴメン、明日は一緒に帰るからさ」 「じゃあ、明日は手を繋いで帰ろう!!」 「それは拒否する」 「なーんーでーだー。付き合って一年も経つのに、手も繋いでないなんて私たちくらいだよ!!」 だって恥ずかしい。 「も~、あなた何歳ですか?」 「十三歳」 俺は真顔で答えた。 「アスカのバカ。今日は一人で帰るのコワイの!!」 ハクが突然ムキになる。 「この前の誘拐犯、こっちの地方にも進出してきたの!!」 「‥‥マジ?」 俺は素直に驚いた。 しかし、すぐに記憶をさかのぼる。 「アレ、一昨日ぐらいに捕まったぞ?」 「嘘だよ!私、今日の朝に新聞で呼んだもん!」 「その新聞、古いんじゃね?」 沈黙。 「でも、コッチにも来たって書いてあった」 「ああ、来たよ。でも捕まったぞ?」 「‥‥‥‥‥‥」 黙るハク。 しかしすぐに 「どうせ私はバカですよ!」 走っていってしまった。 「やれやれ‥‥」 ニュースだと時間がかかるから、新聞を読めと言った俺にも責任がある。 手くらい繋いでやるか、なんて思った。 何故か、ハクは勉強ができないくせに読むのは早い。 不思議だ。  
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