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しばらくの間二人は泣いていた。
康志は目を閉じ落ち着くようにゆっくりと呼吸をする。
感情が石になればと願う。
康志の涙は止まったが一葉は下をむいたまま泣き続けた。
「…一葉。」
康志はそんな一葉にやさしく声をかけた。
「…何。」
一葉は顔を上げる。
「今までありがとな。僕が一葉と会えるのは今日だけだ…これだけは伝えたかったんだ。」
「康ちゃん?」
「遺言だよ。君への。」
「…駄目だよ。変なこと考えちゃ…康ちゃんがいなくなったら私生きていけないんだからね…」
「…一葉は強いから…僕がいなくなっても平気だろ?」
「約束したじゃない!私より先には死なない。独りにしないって…」
「…ごめんな。一葉…」
康志は一葉の顔を見れずに下を向いた。
「やだよ、康ちゃん。やだよ…」
一葉は仕切られたガラスを両手でたたいた。
後ろのドアから警官が入ってきて一葉を引き離す。
「康ちゃん…康ちゃん!…」
一葉は引きずられるように部屋から連れ出される。
それを見ないように康志は下を向いていた。
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