まるで確認するように

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そして俺は処刑台の上に移動させられた。 隣に立っている神父がそっと口の中の布を取り出し、俺に聖書を差し出す。 「さぁ、これに手を置いて、我らが主に祈るのです。そうすればあなたの魂は救われるでしょう」 俺はその聖書に唾を吐き、言ってやった。 「この世に神がいるんなら、俺はとっくに家に帰ってるだろうよ」 「────!」 神父の顔がみるみる赤くなっていくのがわかる。神父は怒りで震える声で言う。 「…最後の言葉を聞きましょう」 この時ばかりはうるさい観衆も静かに俺の言葉を待っている。 この溜まった怒りの全てを吐き出そう。思い切り息を吸ったその時。 「お兄ちゃん!!」 それは 俺が一番聞きたかった声だった。 「私……、私信じてるから!お兄ちゃんは何もやってないって知ってるから!」 ニーナ……止めてくれ。涙が止まらないじゃないか。 「周りの人みんなが敵になっても私はお兄ちゃんの味方だから!」 嬉しい事言ってくれるじゃないか。本当に可愛いな……もう。 「最後の言葉を」 神父が俺を急き立てる。 死刑執行人が斧を構え、俺の言葉を待つ。 最後の言葉……今決めた。真犯人に復讐する為に、そして何よりも残していく妹の為に、俺は── 「必ず帰ってくる」 そう言った瞬間、俺の〈人生〉は幕を閉じた。
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