898人が本棚に入れています
本棚に追加
そして俺は処刑台の上に移動させられた。
隣に立っている神父がそっと口の中の布を取り出し、俺に聖書を差し出す。
「さぁ、これに手を置いて、我らが主に祈るのです。そうすればあなたの魂は救われるでしょう」
俺はその聖書に唾を吐き、言ってやった。
「この世に神がいるんなら、俺はとっくに家に帰ってるだろうよ」
「────!」
神父の顔がみるみる赤くなっていくのがわかる。神父は怒りで震える声で言う。
「…最後の言葉を聞きましょう」
この時ばかりはうるさい観衆も静かに俺の言葉を待っている。
この溜まった怒りの全てを吐き出そう。思い切り息を吸ったその時。
「お兄ちゃん!!」
それは
俺が一番聞きたかった声だった。
「私……、私信じてるから!お兄ちゃんは何もやってないって知ってるから!」
ニーナ……止めてくれ。涙が止まらないじゃないか。
「周りの人みんなが敵になっても私はお兄ちゃんの味方だから!」
嬉しい事言ってくれるじゃないか。本当に可愛いな……もう。
「最後の言葉を」
神父が俺を急き立てる。
死刑執行人が斧を構え、俺の言葉を待つ。
最後の言葉……今決めた。真犯人に復讐する為に、そして何よりも残していく妹の為に、俺は──
「必ず帰ってくる」
そう言った瞬間、俺の〈人生〉は幕を閉じた。
最初のコメントを投稿しよう!