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――夜も深まり虫も寝に入る頃、ある屋敷の裏木戸に蝋燭の頼りない明かりが揺れていた。
「行くのか。」
低い男の声が響いた。
『はい。行かねばなりませぬ…。』
若い女の声が答える。
「辛いか」
『―いいえ』
「…済まぬな…」
『謝する必要はございませぬ。これは私が決めたこと…』
「分かった。もう頭は下げぬ」
『はい。後の事、よろしく御頼み申し上げまする』
「任せろ。―行くのか」
『はい』
「道中には気をつけよ。彼のお方が引くのは子だけとは限らんのだ…」
『はい。心得ております』
「うむ。頼んだぞ」
『しかと、承りました。では…――』
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