短編2

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――夜も深まり虫も寝に入る頃、ある屋敷の裏木戸に蝋燭の頼りない明かりが揺れていた。 「行くのか。」 低い男の声が響いた。 『はい。行かねばなりませぬ…。』 若い女の声が答える。 「辛いか」 『―いいえ』 「…済まぬな…」 『謝する必要はございませぬ。これは私が決めたこと…』 「分かった。もう頭は下げぬ」 『はい。後の事、よろしく御頼み申し上げまする』 「任せろ。―行くのか」 『はい』 「道中には気をつけよ。彼のお方が引くのは子だけとは限らんのだ…」 『はい。心得ております』 「うむ。頼んだぞ」 『しかと、承りました。では…――』
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