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「コッ、コッ…」
時は既に丑三つ時…、ろうそくの灯りと共に読み物に没頭していた鷹通はふと、目線をろうそくの灯りに預ける…。
「気のせいか……」
そして再び書物に目を向けようと俯きかけた時、今度は聞き慣れた声と共に「コッ、コッ」という、壁を鳴らす音がしっかりと耳に入った…。
「鷹通…、いつまでそうしているつもりなのかね?」
『友雅殿…!』
鷹通が視線を向けた先には、柱にもたれ掛かったまま、手元の扇子で柱を鳴らす友雅がいた。
『どうなさったのですか?このような時刻に…』
鷹通の問いかけに、友雅は僅かに微笑しながら溜め息を吐いた。
「やはり忘れていたか…」
そう語る友雅を、鷹通は不思議そうに見つめる。
『えっと………、申し訳ありません友雅殿。なんの事を仰っているのか解りかねるのですが……』
鷹通は申し訳なさそうに、人差し指で眉間を掻いていた。
友雅は、真剣に事の事態をのみこもうとする鷹通に向かって静かに囁きかける…
「あの晩…約束した筈だよ?
〝次の満月の晩も、キミを捕らえるから〟とね…。」
語り終えた友雅は、ゆっくりと鷹通の間近へと歩を進めた。
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