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「待ってよ父さん、そんなに早く走れないよっ!!」
さっきから母さんの息が異常に上がっている、このまま走り続ければ汚染された肺が潰れてしまう。
「っ……父さんっ!!」
灰色の空はそれを知っているのか嘲笑うように厚い雲を更に広げる。
ッガ……ドシャッ
「母さんっ!?」
ついに母さんが倒れた。
「父さん、もう無理だっ母さんが走れないよっ!」
俺の腕の中にはすっかり弱りきった母さんがいる。
「……っ!!……………解った。」
父さんが立ち止まって近くの建物に三人で身を隠した。
「母さん、しっかりしてよ……母さん……」
「今日はツいてなかったな……まさか見つかるとはな……」
「だから俺はやめようって言ったんだよっディトス家のやつは何考えてるか解らないから」
母さんの手が弱々しく俺の腕を掴む
「違うわ……こんなこと、最初からやってはいけなかったのよ……」
「な、何言ってるんだよ母さんっ
こうでもしないと俺達暮らしていけないんだよ?」
小さな皮袋には色とりどりの宝石が入っていた。
世界が貧民と富豪に別けられてから。
この国に法律は無くなっていた。
俺達みたいな貧民は清くなんて生きていられない。
もっとも、血に染まった金を使う富豪だって清いとは言えないけど
明日を生き抜くために必死に盗みを働く
テロリストが行き交う危険な街の隙間を縫って
ひっそりと……
したたかに……
でも、確かに生きている。
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