第 一 話

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『琉依、悪いが出張用の荷物を届けて貰えないか?』 「また出張なの?」 つい不満の声が漏れる。 部長という役職についている父はしょっちゅう出張で家を空ける。 基本は一泊か二泊の出張だが、時々一週間の出張もあった。 『怒るなよ。』 情けない声を出す父に溜め息が零れた。 「今回は何泊?」 『…一泊。』 どこと無く様子の可笑しい父に、私の眉間に皺が寄る。 「お父さん、何か隠してない?」 『いやっ!何も隠してないぞ?』 慌てて否定する辺りますます怪しいが、追求するのは会った時にしようと決め、話を戻した。 「いつも通り駅に行けばいいの?」 『…いや、今日は職場の方に……』 歯切れの悪い父に、絶対何か隠し事をしていると確信した。 「私、お父さんの勤め先知らないわよ。」 『住所はメールしておくから、頼んだぞっ!』 慌てながらそう言うと父は一方的に電話を切った。 「…行きたくないんだけど…」 嫌な予感につい本音が零れた。  
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