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「自殺して逢ってもお父さん、嬉しくないでしょ。
それにね…翼はきっと、そんな方法じゃ手にはいらないよ」
図星を突かれた佳苗はカッとして叫んだ。
「親もいないあんたに言われたくない!
翼をもつ…あんたに何がわかるの!?」
「わかるよ。…未風は未完成の風。神様の溜め息から私は生まれた。
翼は持っても、私は歩くことも…笑うこともできない。
だから気持ちは分かるよ」
未風は少しうつ向きながら、言った。
「正直、未完成なままなんて生まれてきたくなかったよ。
でも…生まれてきた。
私はここにこうして生きてる。なら…進もうって思ったの。
笑えるようになりたいから…諦めて立ち止まったら、全て終わる気がしたから」
うつ向いていた未風は、傾き始めた太陽を見つめながら話続けた。
「佳苗が精一杯生きたら、お父さん嬉しいと思う。
佳苗のお父さんは空の向こうにいるんじゃない、佳苗の横にきっといるよ。
それでいつか…その魂が精一杯生きて燃え尽ききたときに、
翼が与えられると思う。天国にいくために」
夕陽が二人の顔を照らし、街をオレンジ色に染めた。
「人が幸せになるには一人じゃ無理なんだって。
だから私は佳苗の幸せを祈り続ける。翼を求める人間の喜びを私は祈り続ける。
そして、神様から与えられたものを大切にしていこうって思う。
私は…翼。
佳苗は足と笑顔」
佳苗と未風は互いにみた。足と、翼と、顔を。
二人は笑っていた。
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