そんなことはないらしい

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  そして僕が振るったものは、実は折れ曲がった自在定規で、それにびっくりした彼女を捻挫させてしまった。 何とも穴があれば入りたくなる勘違いのオンパレード。   今にでも逃げ出したいが、怪我をさせてしまったのは僕の責任。 そうしてこうして、僕は彼女をおんぶして途方もなく長いこの道を歩いている。   「ほれほれ頑張れよ、痛い子くん」   とても屈辱的なあだ名も付けられるが、それでも喉から飛び出そうな文句を必死に抑える。 背中に当たるアレの感触も、我慢を助けてくれているのは秘密だ。   「はいはい、痛い子タクシーは安全運転で運行致します」   目の前に現れ始めてきた、明かりの塊へ僕たちはゆっくりと大切に歩いていく。 鼓動も感じ、さっきの過ちを二度と犯さないと刻みながら。   もう一回言うが、ご存知だろうか。 満月の夜は殺人が増えると言われていることを。 それはどうやら引力の関係で、一種の興奮状態になるかららしい。   だが彼女にそれを話すと、こう鼻で笑われた。   「バーカ、“そんなことはないらしい”よ」   「どうもすいませんでした……」       【おしまい】
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