そんなことはないらしい

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――時計は午後七時半。 携帯を閉じて、ポケットへしまう。   僕は学校が終わり、山を切り開いたそこから下っていた。 まったく民家が見えないこの場所で、道案内をしてくれるのは切れかけの街灯。   ヘッドホンが壊れてしまい、音楽は虫たちの豪華なオーケストラ。 普段はあまり聞かないので、特に斬新に聞こえるメロディがぐるぐる回る。   「リンリン、シャンシャン、ギリギリ……」   寂しいところがあったのか、僕はその音楽隊とセッションしようとした。 しかし根本的に違うのだろう、まったく溶け込まず気持ち悪くなるばかり。   肩掛けカバンが激しく揺れ、尻に当たって歩きにくい。 坂を下っていく運動はとても脚に負担が掛かり、嫌になってきてしまう。   やっと駅まで半分の所にたどり着き、下り坂とさよならする。 ここは両端に畑と田があり、民家もほんの少しではあるが増えていた。   何が出てきてもおかしくはなく、街灯が少ないので足元を注意しながら一歩ずつ。 都会育ちである僕がいきなりそれ系のものと遭遇してしまうと、きっと関節すべてが瞬間接着剤で。   コンタクトレンズが、慣れない夜道で乾いていくのを感じた。 目を擦ればポロッと本音の様にこぼれてしまうだろう。
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