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本当のところを言えなかった。
ライバル意識と言うやつだろうか、そんなモゾモゾとしたものが言葉をすりかえていく。
「そうでっか。なかなかロマンチストなこって」
「いや、それよりもさっきの質問の答えがまだなんだけど。いいのか、ゼロ点で。単位やらんぞ」
反撃、これからが僕の反攻だ。
テストで名前を書いても、中身がすっからかんならば点をあげることは出来ない。
学生生活十三年で、これを知らないものはいないはず。
「なかなか厳しい先生で。仕方がない、答えは“私もそうです”で」
頭をポリポリ、リズムを感じさせる手つきで掻きながらアホらしく笑うあいつ。
妙に表情が硬く、落ち着きがない気もするが、だから何だと言う。
しかし返答。
これは僕をアホにしているのか。
嘘の答えである僕と、同じになるワケがない。
面倒だから適当に返したに違いないもので、つまりは“お前に言う必要なし”と言うこと。
静かな怒りが沸き始めて、どんどん水面を揺らしていく。
だが、勘違いならば良くない。
真意を聞くために、僕は肺をに新鮮な空気を送り込み、拳に入った力を抜いた。
「それはどういうことなんだよ」
「そういうことって、こういうことだけど」
そうか、そうですか。
眉をひそめながら、顎に手を当てて答えるあいつ。
その仕草、雰囲気からして自分が言った言葉に納得している様子だ。
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