3人が本棚に入れています
本棚に追加
「さ、もう一踏ん張り」
戻って時間は午後八時。
僕はずっと聞こえる声に、とてつもなく罪悪感を抱いていた。
何故あんなことになってしまったのか、地面をずっと見続けながら一歩ずつ。
体は鉛の様に重く、汗は全身を必死に冷やそうとし、腕も疲れて震えだした。
落とした携帯電話も何とか拾い、カーゴパンツの深いポケットへ消えていく。
後ろに引かれるものを感じながら、駅までの道を必死に進んでいく僕。
すべては元に戻っていて、平常時とまったく変わらない体。
「そうそう、頑張れよ。わたしを怪我させたんだからな」
背中から聞こえてくる声は、あいつだった。
そう、僕が“彼女”を驚かせ、怪我をさせてしまったのであった。
「まったく、わたしがわざわざ忘れ物のウォーターポンププライヤを届けてやろうとしたのに。何を勘違いしたのか、自在定規を振ってきて」
簡単に説明しよう。
すべて勘違いだったのだ。
彼女は別の班で実験をし、僕よりも帰りが遅くなったのだが、そこで忘れ物のそれを届けようとしてくれただけなのだ。
余計なのは変ないたずら心で、後日渡せば良いものの、わざわざ近道して先回りし、驚かせてやろうとしたことで。
最初のコメントを投稿しよう!