そんなことはないらしい

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    「さ、もう一踏ん張り」 戻って時間は午後八時。 僕はずっと聞こえる声に、とてつもなく罪悪感を抱いていた。 何故あんなことになってしまったのか、地面をずっと見続けながら一歩ずつ。   体は鉛の様に重く、汗は全身を必死に冷やそうとし、腕も疲れて震えだした。 落とした携帯電話も何とか拾い、カーゴパンツの深いポケットへ消えていく。   後ろに引かれるものを感じながら、駅までの道を必死に進んでいく僕。 すべては元に戻っていて、平常時とまったく変わらない体。   「そうそう、頑張れよ。わたしを怪我させたんだからな」   背中から聞こえてくる声は、あいつだった。 そう、僕が“彼女”を驚かせ、怪我をさせてしまったのであった。   「まったく、わたしがわざわざ忘れ物のウォーターポンププライヤを届けてやろうとしたのに。何を勘違いしたのか、自在定規を振ってきて」   簡単に説明しよう。 すべて勘違いだったのだ。   彼女は別の班で実験をし、僕よりも帰りが遅くなったのだが、そこで忘れ物のそれを届けようとしてくれただけなのだ。   余計なのは変ないたずら心で、後日渡せば良いものの、わざわざ近道して先回りし、驚かせてやろうとしたことで。
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