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「……バカにしてんの?」
「いえいえ、決してそうではありませんよ。第一、私は貴方と交渉しに参ったのですから」
「……交渉?」
「ええ、交渉です」
まるでエセ紳士なみに妖しい笑みを称えながら、そう口にする彼は神というよりも実に怪しい人物に他ならなく見えたのだが特に鞠亜は気にもせず話しを続ける事にした。
「で?その神様とやらが、たかが、いち人間に過ぎない私に持ってきた交渉って何な訳」
「おや、君は私が神だと信じてくれるのですか?」
「一応だけどね」
「一応?」
「だって、もう私は死んでる訳だし別に神様だっていう貴方が現れた所で何の不思議もないもの……それより私が気になるのは、その神様が持参した交渉とやらの件」
「ほう……成程、やはり貴方は私自ら交渉しに来るに相応しい人間のようだ」
「何それ……まるで普段は貴方ではなく違う人が来てるみたいに、言うのね」
「ふふっ、『まるで』ではなく、その通りですよ賢しい娘。普段は私自らではなく使いに任せていますから……今回は異例の交渉だったので自ら来ましたがね」
「異例って余程の問題があったと捉えた方がいいのかしら?それと私の名前は賢しい娘ではなく鞠亜よ。四ノ宮 鞠亜」
「おや、これは失敬致しました」
おどけたように言う青年に対し、苛立ち幾数千億の死人の名前を覚えられないならともかく対峙してる死人一人の名前くらい覚える事も出来ないの、と呆れたように言う鞠亜。
が、そんな鞠亜に苦笑しながらも、青年からは一向に悪びれた様子は見受けられなかった。
その為、なんだかスッキリとはしないモヤモヤを抱えながらも鞠亜は言葉の堂々巡りを避けるように次の言葉を口にする。
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