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「はあぁー…」
駄目だ、溜め息しか出てこない。
急に兄貴を恋愛対象として意識してしまった俺は、昨夜からずっと悩んでいる。
学校に行けば、滅多に兄貴を見ることもないのでホッと出来ると思ったが、逆に考え事をしてしまい、モヤモヤが晴れない。
「永瀬ー、どうしたんだよ。そんなに溜め息ばっか吐いて」
休み時間、隣の席の後藤が不思議な顔をして尋ねてきた。
一度は後藤に目を向けたが、奴の顔を見てまた溜め息が出た。
「おい、人の顔見て溜め息吐くなよ」
「あー、わりぃわりぃ」
「……お前悪いなんて思ってないしょ」
だって仕方ない。何を見て何をして過ごしても、悩みは解決しないのだから。
俺は焦れったさに足をバタバタさせ、うーん、と唸った。
「今日のお前、変だな。いつも変だけど」
「……いろいろあるんだよ」
流石の俺も、まさか兄貴に恋をしているかもしれない、だなんて言えない。
「──好き、なのかな……」
兄貴のこと──。
ほぅ、と溜め息を吐く俺。
そんな俺に後藤は何を思ったのか、ニヤニヤと笑いだした。
「何だ、恋煩いかー」
「……っ!?」
「恋」という言葉を聞いた途端、びくりと肩が震えた。
その言葉は、今の俺にはタブーそのものだったのだ。
「…こっ、恋だなんて言うなぁああ!!」
そう叫びながらガタンと音をたてて席を立つ。
「………あ」
気付けば、クラス中の視線の的。
しまったと思った時には、もう遅い。
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