524人が本棚に入れています
本棚に追加
「で、どっちにする?」
「ん?…ああ。じゃあ、先に夕飯食べるわ。久しぶりに兄貴と一緒に食べれるし」
「………ん」
俺がそう言うと、一瞬、兄貴は少し顔を和らげ後、キッチンに戻っていった。
相変わらず返事の仕方はぶっきらぼうだったが、どこか嬉しそうな雰囲気だった。
そのことに気付いた瞬間、思わず息を呑んだ。
笑った。
兄貴が笑った。
他人から見たらそうは見えなくても、兄貴にとっては確かに笑ったのだ。
嬉しそうに。
これは長年兄貴を見てきた俺ではないと分からないだろう。
「……っ、何でそう嬉しそうなんだよ…」
普段笑ったりなんかしないのに。
鼓動が早い。物凄く。
ドキドキして、バクバクして、普段の俺じゃないみたい。
どうしたんだろう俺。かなりおかしい。
たかが兄貴の笑顔一つでこんなに動揺するなんて。
顔が熱くなるだなんて。
少し笑っただけの表情が、凄く綺麗に見えただなんて。
これじゃまるで。
まるで──
「──恋、したみたいだ…」
男に、しかも実の兄相手に恋をするだなんて有り得ないのに。
有り得ないと、そう思う筈なのに。
その後の夕飯の最中、俺は兄貴の顔を一度も見れなかった。
最初のコメントを投稿しよう!