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“勇者”がそこに居た。
同じ世界に転生していた。
それが嬉しくて今すぐ駆け寄りたかった。そして“あの時”を謝りたかった。
でも、よく考えてみると向こうにも記憶があるかどうかは解らない訳で、俺は視線を反らして深呼吸、それから教室に入った。
気を抜けば涙が溢れそうになる中、そいつの名前を胸に刻んだ。
――相楽 恭一(サガラ キョウイチ)
俺に“花笠 伸吾”という新しい名前ができたように、当たり前だが勇者にも新しい名前ができていた。
その日の授業が終わり、笑いながら児童が下校していく中で俺と“恭一”だけは教室に残っていた。
「なあ」
「……はい?」
椅子に座ったままの俺の目の前に“恭一”は立ち、震える声で話しかけてきた。他人行儀にする俺に眉を潜める。
「……」
「……」
無言。
そういえば勇者はシリアスな雰囲気が苦手だったなと思い出して心の中で苦笑した。
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