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――気付くと、僕は《夜》だった。 ――気付くと、僕は《闇》だった。 ――気付くと、僕は《月》だった。 ――気付くと、僕は…… 《暁》に、恋をしていた。 《暁》である彼女と出会ったのは、ほんの数月前だったと記憶している。 僕はその夜(ヒ)も、高い木の上から下界を眺めていた。 さわさわと木々が微かな音をたて、その度に鳥の啼く声が聞こえてくる。 望月に照らされた地上には、小さな集落が垣間見えていた。 古い村のようで、夜の帳も深い今の時刻では、人の気配がまるでしない。 ――いつもと変わらない、静かな風景だった。 ただただ呆と村を見下ろしていると、自慢の短い漆黒の髪が、強く吹いた風にさらわれた。 途端に銀に染まっただろう、月色の瞳に、白い肌。そして、頬を伝う、一筋の黒い紋様――。これが、人のカタチをした、僕。 《夜》そのものの僕は、わざわざ人型にならなくても天から人を見下ろしていられるのだけれど、何故だかこの場所で風に揺られるのが好きだった。 いつから、なんて分からない。 強いて言うなら、僕が僕であると自覚したその時から、だろう。 ずっと、ずうっと前から、僕は人のカタチをして、この巨大な老木の頂点から人間たちを眺めていたのだ。
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