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そんなことを毎夜繰り返すだけだった僕の日常に、亀裂が走ったのは、もう数刻で夜が明けるという時だった。
視界の端に、光が見えた。
月光ではない。下界から放たれる、朱い光。
なんだろうと、木の根本を覗き込んで、僕は驚いた。
光だと思っていたそれは、長く燃えるような、朱い髪の毛だったから。
朱髪の主は、ふらふらと覚束ない足取りで、巨木の根に腰を降ろした。
上からではよく見えないが、痩せ細った白過ぎる身体と、それを包んでいるのが頼りないボロ切れだということは、分かった。
僕は人間を判別するのは苦手だけれど、体格からして、子供ではなく、歳若い女性だろう。
彼女は、ふうっと一度大きく息を吐くと、
緩慢な動きで、僕を、見上げた。
――いや、僕を見たわけではなかったかもしれない。
だけど、彼女は髪と同じ真っ赤な瞳を、僕に向けて、言ったのだ。
「……ああ。なんて綺麗な夜だろうね」
僕は、思わず応えていた。
「……そうだね」
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