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その後も僕たちは、毎夜そこで月を見て、時々話をした。
僕は木の上から。
彼女は木の下から。
やがて、何ヶ月か経って、僕は今日も月を見上げていた。
あの日と同じ、綺麗な満月の夜だった。
風は強くなく、柔らかに額を撫でて過ぎ去っていく。
しばらく僕は、その心地よい風に、緩やかに瞼を閉じていた。
がさがさ、と音がして下を見ると、木の根本に彼女が立っていた。
僕は凄く喜んだけれど、直ぐにあることに気付いて、息を呑んだ。
――彼女は、腕に大きな怪我をしていた。
怪我。それも、おそらく切り傷だろう。
暗くてよく分からないが、赤く変色しているように見える。
僕は生まれて初めて、木から飛び降りると、彼女に駆け寄った。
近くで見ると、思いの他彼女は小さく、僕の肩くらいまでしか身長がなかった。
しかも、ここ最近で、また一段と痩せたように見える。
――それと。
彼女の腕の怪我は、既に軽く治療がしてあった。
古ぼけて茶色になった包帯が、反対の手に握られている。
おそらくは、数少ない道具を使って、自分で治療したのだろう。
「自分じゃ上手く包帯が巻けなかったから、十六夜に手伝ってもらおうかと思ったんだ」
と、彼女は言った。
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