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どれくらいたったろう。 僕の真っ暗な夢の中に、一筋の光が入ってきた。 その光はだんだんと大きくなって、微かで、柔らかな声を運んできた。 懐かしい、彼女の声だった。 何処からともなく響いてくる声は、優しく言葉を紡ぐ。 《わたしがお前に十六夜という名前をつけたのは、わたしが満月が好きではないからなんだ。 明るい光が、わたしは恨めしい。 恐ろしい影を、浮き彫りにするから――》 じゃあ、なんで月なんか見てたの。綺麗だって、いっていたじゃないか。 僕は、そう彼女に言いたかった。 彼女の話は、まだ続いた。 《そして、わたしは欠けた月が好きだ。 完璧なんじゃなくて、少し欠けたところのある、月が。 だから、わたしはお前には十六夜が似合うと思ったのだ。 ……お前は知らないかもしれないが、わたしはずっと前から、お前を見ていたよ。 それも、子供の頃から。 ずっとずっと、月明かりに照らされるお前が、綺麗だと思っていた。 ――なあ、十六夜。 もう一度わたしに、夜を見せてはくれないか……?》 ああ、ああ。 暁。 君が望むなら、 僕はなんだってしよう――。  
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