5人が本棚に入れています
本棚に追加
どれくらいたったろう。
僕の真っ暗な夢の中に、一筋の光が入ってきた。
その光はだんだんと大きくなって、微かで、柔らかな声を運んできた。
懐かしい、彼女の声だった。
何処からともなく響いてくる声は、優しく言葉を紡ぐ。
《わたしがお前に十六夜という名前をつけたのは、わたしが満月が好きではないからなんだ。
明るい光が、わたしは恨めしい。
恐ろしい影を、浮き彫りにするから――》
じゃあ、なんで月なんか見てたの。綺麗だって、いっていたじゃないか。
僕は、そう彼女に言いたかった。
彼女の話は、まだ続いた。
《そして、わたしは欠けた月が好きだ。
完璧なんじゃなくて、少し欠けたところのある、月が。
だから、わたしはお前には十六夜が似合うと思ったのだ。
……お前は知らないかもしれないが、わたしはずっと前から、お前を見ていたよ。
それも、子供の頃から。
ずっとずっと、月明かりに照らされるお前が、綺麗だと思っていた。
――なあ、十六夜。
もう一度わたしに、夜を見せてはくれないか……?》
ああ、ああ。
暁。
君が望むなら、
僕はなんだってしよう――。
最初のコメントを投稿しよう!