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日本陸上自衛隊特殊作戦司令部
午後7時
どこかの山奥に彼らは居た。
生命に満ち溢れる自然の中に紛れる迷彩色。まるで瞳のような赤が鋭く光る。
命が造り出した
ただ主人の命令を従う命なきもの
彼らは見張っていた。見守っているのではない。
「北側モーションセンサーの様子は?」
「はい二佐殿。目標は消滅しました」
「よろしい」
彼らの先には戦闘部隊の為の戦闘基地があった。森林用の軍服に意味を感じさせないほどの規模。
ここには陸上自衛隊の一個師団が集結している。
多くの自衛官は、集結している理由を知らなかった。
駐屯地の存在意義は首都の防空。様々なレーダーや火器管制システムが配置され陸地の後方支援を行う長距離砲がどっしりと構える。
内部には、まるで戦争でもするかのように大量の弾薬と食料、燃料などが運び込まれていく。
山とはいえ森を切り開いている為やはり暑さを感じる。搬入を行う隊員の頬に汗が流れた。
そう季節は夏なのだ。
駐屯地に展開しているほぼ全ての部隊を見渡せる司令部の師団長室には、二人の自衛官がなにやら話しをしていた。
「佐々木陸将殿…これは最終確認ですが、ご意志を変えられる気はごさいませんか?」
佐々木と呼ばれた初老の男性は目の前にいる中年でがっしりとした体系の男性に答える。
「もちろんだとも。せっかく一個師団を集めたんだ。今さら後戻り出来るわけあるまい」
そう聞かされた男性は下を向き少し考える。
そして面を上げ、決心した顔で言った。
「立派なご意志です。事実を知らない隊員には明日の朝に伝えます」
「よろしい。頼んだぞ三國陸将補」
「了解しました」
そう言うと三國は師団長室を出て行った。
彼が居なくなり寂しくなった部屋で佐々木は目を閉じる。心の中でつぶやく。
「この平和ボケした日本を救うには、私達がクーデターを起こすしかないのか…」
彼とて暴力で事を済ませることは好ましいとは微塵も思ってはいない。
それに三國のやるせない表情を見逃したわけでもなかった。
しかし今の彼にはどうすることもできないのだ。
市ヶ谷が計画立案したこの壮大なプロジェクト…
国の為、仲間の為、家族の為…
彼は計画を完遂させると誓った。
目的は首都制圧にあらず。
我らは消え去るのみ。
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