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「…」
学校の帰り道。
信号が赤から青に変わり横断歩道を渡ろうと歩き出した流弥の目の前の景色が歪んだ。
前触れもなく、突然。
「これは…?」
歪みはやがて先の見えない穴となった。
「…」
そして気づく。
誰もこの穴の存在に気づいてない。
道行く人達は穴を避けるように歩いているが、その不可思議な光景に目を向ける者はいない。
意識して避けてるようには見えない。
どうなってる…?
穴の奥からは遠目だがよく見ると何か町のようなものが見えた。
「!?」
ドクンッと心臓が激しく脈打つのがわかった。
心にこれまでにない衝撃が走った。
見た事もない物を見た時の興奮とも、言い知れぬ不安に襲われた時の恐怖とも違う衝撃が…
「…よし」
迷わず決めた。
行こう、この穴の先へ。
そう決めた時、色んな事が頭をよぎった。
母の事、学校の事、教師の事、クラスの奴らの事…
しかし、どれもこの場に留まろうとするための足枷にしてはあまりにもお粗末なものだった。
一歩、また一歩と確実に前へ進んで行き、穴の目の前まできた。
残すところ後二歩といったところだ。
だが、そこで流弥の足は止まった。
「…湊」
最後に頭に浮かんだのがよりにもよってアイツとはな…
「そうか、もしかしたらアイツにも、もう永遠に会えないかもしれないんだよな」
それだけで十分だった。
後少しというところで流弥は穴の中へ入ることを断念した。
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