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309号室 吉田沙希
プレートには沙希の名前一つだけだ。
そういえば、話相手がほしいとか愚痴ってたことがあったっけ。
コンコン、とドアをノックする。
「はーい?」
ドアの向こうから沙希の声がする。
ドアノブを回し、ドアを開ける。
「沙希、調子はどう?」
ヒマワリを体で隠して沙希に話しかける。
「あ、孝司君。病院って本当に暇だよね」
そう言いながら沙希が少しほっぺたを膨らませる。
肩より少し長いぐらいの髪が窓を開けているせいか少しなびいている。
「そりゃー病院だからな。それより、じゃん!」
体で隠していたヒマワリをさっと出して沙希に見せる。
「これ、きれ…「うわー、ヒマワリだ!どこから採ってきたの!!?」
俺が必死に考えた台詞を言い終える前に沙希が割り込んでくる。
「が、学校の花壇…」
肩を落としながら言う。
「へぇー、学校ってヒマワリが咲いてるんだ」
そういう沙希の顔は、嬉しそうだが、どこかさみしそうに見えた。
それもそのはずだった。
沙希は今、記憶を失くしている。
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