始まり

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「えっと…渡辺孝司です。趣味は読書です…えーっと…」 僕は、クラス替えをすると必ずある自己紹介が嫌いだ。 なんでいちいち自分のことを全員に言わないといけないんだ。 知りたい奴だけ聞きに来れば済む話じゃないか。 「はい、渡辺君ね。ありがとー」 新しい担任の先生が大きな声で言う。 「はぁー…」 大きなため息をついて席に座る。 僕は名字のせいで出席番号が遅く、いつも自己紹介は最後だ。 だから、必ず印象に残るし最後ってことで皆注目する。 それがいやだった。 「ったく…」 一人でそう言いながら今読んでいる小説を開く。 「本当に読書が好きなんだ」 「え?」 前に座っていた女子が振り返り、俺に声を掛けてきた。 ここで初めて僕は沙希と話した。
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