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「おめでとう。…まあ、相沢なら受かると思ってたけどな」
「ふふん。やっぱり実力がものをいったんですよ。当然の結果ですね」
「うわ、可愛くねぇよお前!」
そう言うと、教卓に腰掛けていた先生は大袈裟に仰け反って抗議した。次いで静かな教室の中、パイプ椅子がギイと古びた悲鳴をあげる。
荒い口調でも、全然怖くなんてない。眼鏡の奥に見える目尻がふわりと弧を描いている。彼は心から喜んでくれているのだ。それが分かってるからこそ、たまらなく嬉しくなった。
「でも本当に良かったな。お前の努力の結果だぞ」
「………ううん。全部先生のお陰だよ。本当にありがとね」
「おいおい、何だよ急に改まって」
先生が笑うから、何だか私も照れてしまって笑う。こうやって二人でふざけあいながら馬鹿げたやり取りをするのは、きっと今日で最後になるだろう。
そう思うと少しだけ目の前が揺れたけれど、ぐっと奥歯を噛み締めることで我慢した。
笑う時、目元にできる小さな皺。顎に手を当て撫でる癖。優しすぎるほどの深い瞳。
悲しさで涙を流すより今は、この人の仕草や面影すべてを目に焼き付けたいと思ったから。
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