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とてもでは無いが気まずい。
今までは、一ヶ月に一回顔を合わせ、二言三言たわいもない話をするだけの無概にとってはとても良好だった付き合い。
仲が言い分けでも無く悪いわけでも無かったのだ。
「ふっ───久々に見たな。お前の困惑する表情を」
数秒の思考停止。 そんな無概に対し、冬空は烏龍茶の入ったグラスに再び焼酎を注ぎながら、先程までの機嫌の悪そうな表情から一転、意地悪そうな笑みを浮かべていた。
「………、俺は初めて見ましたよ。
冬空さんのそんな表情」
少しばかりの皮肉混じりにそう言い放つ無概。
「私だって人の子さ、四六時中仏頂面をしている訳では無いさ」
そんな無概の皮肉混じりの言葉も気にしせず、再びグラスの中身を一気に飲み干す冬空。
「まあ、……、一週間、ゆっくりして下さい」
今まで変わらなかった義理の姉との関係の少しの修復。
無概は先程あったストーカーの一件で頭の片隅に残っていた事が無くなった気がした。
何故無くなったのか無概にはいまいち分からなかったが、考えるだけ無駄だと諦めた。
「ああ、よろしく頼む。
それと───」
そんな無概の心情など知らずが、冬空は空のグラスを無概に向け、笑みを浮
かべる。
「ただいま、無概」
「………はっ!」
思わず笑ってしまう。
無概が知る限り、冬空七星がこの家に来て【ただいま】などと言った事は一度も無い。
とても、不器用な人だ。
突き出されたグラスに、同意したかの様に、一口も浸けなかったグラスを軽く当て、無概は
「お帰り、冬空姉さん」
そう義理の姉、冬空七星に交わした。
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