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「私? 私は私以外の何者でもないよ?
例え外見が変わってもね」
────何言ってんだコイツ?
自身満々に戯言をほざき、小さな胸を張る要を後目に、無概はだらだらと歩く足を止め後ろに振り向き、電柱の影に微妙に隠れる人影に舌打ちをする。
──どうやら要の言う通りだった、嗚呼面倒くさい。
「おい、そこの電柱に隠れてる奴、腹が電柱からはみ出てんぞ。 なんかのギャグか?」
「うひぃっ!?」
電柱の影に隠れる人物──基、どうやら要にストーカーしている人物は驚きの悲鳴を上げ、電柱の影から挙動不審な動きをしながらどたどたとその姿を表した。
「ひっ!?────た、田中君」
ストーカーの顔を見た瞬間、要は先程までの意地悪そうな笑顔が消え嫌悪感剥き出しの表情に変化した。 そしてそのまま目の前の男から隠れるように無概の背中に回り込み、ブレザーの裾を強く握りしめる。
やれやれ……先程までの、冗談まじりの憎たらしい顔は何処へいったのやら。
それにしても、俺のブレザーを握る指から伝わる必の微かな震えからして、コイツへの酷い恐怖心から来る奴なのだろう。
そんな必を見て、無概はついついこのストーカーに苛立ってしまう。
「おい、必」
「何かな無概君。 わ、私は別に震えてなん────」
「そんなに、強くしがみつくな。 ブレザーにシワがつくだろう、アイロンを掛けるのは俺なんだ、そういうとこ────ろがぁっ!!」
突如、脇腹に入る衝撃。
そして、こんな冗談も通じない必に対しても
無概はストーカー野郎と同じくらい苛立ってしまう。
──脇腹はないだろうに、脇腹は。
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