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母の金切り声と父の怒鳴り声が言い争っている。 二人の顔が合えば必ず見られる光景。平日なら夜、休日なら一日中。日曜日の今日は朝からこうだ。 わざわざカレンダーの日付を赤くしてまで世界は休みと認めているのに、どうしてこの二人は休みを知らないで休日を過ごすのだろう。 僕はCDウォークマンのイヤホンを耳に引っ掛けて玄関のドアを開けた。二人の喧嘩はドアが閉まるまでの数秒間、外に漏れた。 家を出て右に曲がると、数十メートル先の十字路で、近所の主婦たちが井戸端会議と称したお喋りをしている。 「鈎沼さんのトコロ、危ないわよね」 「しっ!あれ、一人息子よ」 ひそひそ話をしているつもりなのか、よく響く声では少し離れていても会話の中身が聞き取れた。四人の八つの視線は僕に集まっている。 「死んじまえ」 通り過ぎ様に、主婦たちの群れへ唾と言葉を吐き捨てた。 簡単に使用してはならない言葉だと理解はしていても上っ面の罪悪さえ感じず、彼女たちが実際にそうなったところで悲しむことは決してない。 かといって自ら手を下す気も更々なく、主婦たちの喚き声を背中に、僕はいつもの公園へと向かった。
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