序章

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 洞窟の外を見る。先ほどから、風の音が唸り声のごとく走り回っていた。明日は嵐か。濃い茶色の髪を持った子竜の少年は、どこか他人事のように、ぼんやりと考えていた。  少年は、竜であるが、同時に人間でもある。竜族の中で唯一、二つの種族の血を引いているのだ。ゆえに彼は、竜と人と、二つの姿を自在に使い分けることが出来た。現在は竜族の世界に身を寄せているが、彼は人間の血が色濃く出ているためか、長く竜の姿でいることが出来ない。そのため、今も人間の姿をしているのだ。 (……だが、もう、竜にはならないんだろうな)  外の轟音から察するに、風は勢いを増している。明日などは、雨すら凍って、氷の細かい粒が降ってくるかもしれない。しかし、それでも彼は、明日発たねばならなかった。竜と人の血を引く我が身が、掟に反する忌まわしい存在であることは、物心ついてから(と言っても、彼はまだ八歳なのだが)毎日のように、骨の髄まで叩き込まれた真理だから。  夜が明けたら、彼は両親とも離され、一人で旅立つ。そうして、下に広がる人間の世界に降り立つことになる――名目上は。 (たぶん、俺は明日、死ぬんだ)  どこか近くで、雷鳴が轟いた。
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