情報士官 シュトッツ・ディートリッヒ

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ブライアン大尉は怒りに手を震わせながらも、俺の襟を掴んでいた手を静かに下ろした 「上にはモルヒネによる発作が、死亡原因と報告しておく… ヘンリー。 このことは一切、誰に聞かれても事実を口外するな。 お前達もだ!!」 ブライアン大尉はトンプソンを構え、シュトッツ大尉の遺体に向けて発砲した。 遺体から生暖かい血液が流れ出るのを見て、長く重苦しい沈黙を守る隊員達を見ながら叫んだ 「良いな!! 分かったら返事をしろ!!」 ブライアン大尉の叫びに、隊員達は慌てて返事をする 「それからフランク。 今後一切、身体検査をしてない捕虜と会話するな。 いくら優秀な軍曹でも、次は無いと思え」 ブライアン大尉の言葉に、俺は静かに返事をした。 ブライアン大尉も静かに笑うと、俺の肩を叩きながら建物の外へと出て行く 「マクレーン! ドイツ軍大尉の遺体にモルヒネを打て。 話は後だ!」 ブライアン大尉の言葉に従い、バルコニーで負傷者の手当てをしていたマクレーンが、医療バックの中を探りながら駆け出した 「やっちまったなフランク軍曹。 まぁ落ち込むなって」 ヘンリー少尉も俺の肩を叩きながら、隊員達を引き連れて建物を後にする。 後ろに続く隊員達は、俺に敬礼しながら建物から出て行った 「コイツの肝が据わってただけさ… 気にすんなフランク。 俺達も行こうぜ?」 ドーマンの言葉に、俺は頷く事しか出来なかった。 ブラッドリーとミシェル。 そしてモーリスも静かに頷き、シュトッツ大尉の遺体を見つめる俺の肩を叩きながら、他の隊員達が屯す庭先に消えて行った 「軍曹。 貴方は優しすぎる。 敵に情けをかければ、自分の仕事が増えてしまいます。 そして… 貴方もいつか撃たれますよ?」 シュトッツ大尉の遺体にモルヒネを打ち、マクレーンは俺を見ながらそう告げた。 マクレーンの眼には、何か複雑な感情がこもっている。 仲間を気遣う眼。 ウンザリしたような眼。 嫌気が差した眼。 その全てが当てはまるマクレーンの眼は、俺の心に深く突き刺さった。 シェルブール陥落の、僅か二日前の出来事だった…………。
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