情報士官 シュトッツ・ディートリッヒ

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1944年 6月28日 シェルブール 「上下左右に目を配れ! 狙撃兵にも注意しろ!」 ブルータス少尉の声がこだます中、辺りにはドイツ兵やアメリカ兵の死体が転がり、今まさに熾烈な攻防戦が繰り広げられていた。 反撃らしい反撃を受けずに前進を続けた俺達は、遂にシェルブールの目と鼻の先まで来ていたのだ 「ドイツ軍も必死だな。 見ろよ。 数を誤魔化す為の飾りだ」 ドーマンの言葉に、俺はドーマンが指差す方に目を向けた 「ビックリするネタは尽きねぇな」 建物の影から、砲身に似せた丸太が突き出ていたのだ。 その周囲にはドイツ兵の死体や装具が散乱し、既に見破られた事が分かる 「やっとシェルブールか… 長かったよな」 ドーマンの言葉に、俺は静かに頷いた。 あらゆる銃砲に晒され、沢山の仲間が死んでいったのだ。 言葉も出なかった 「フランク! フランク来い!!」 ブルータス少尉に呼ばれ、俺はドーマンの肩を叩くと、急いでブルータス少尉のもとへと駆け出した。 なにか納屋の様な建物に突っ込んだまま、黒煙を上げながら運転手と共に延焼を続けるキューベルワーゲン。 何の役にも立たないへしゃげた砲身と、操作していた兵士達や車体が不気味によじれたマーダー。 手を天に突き上げたまま絶命し、内部の腹腸が猛烈に腐敗し尽くし、ガスで腹が風船の様になったドイツ兵の死体。 顔をグシャグシャに潰されたアメリカ兵の死体。 シェルブールの光景は、破壊と殺戮そのものであった。 自分も何時ああなるか……。 恐怖と不安が募ったのは、今まで生きてきた中でシェルブールが初めてだった。 そんな不安を拭いながら、俺はブルータス少尉のもとへ辿り着いた 「すごい光景だなフランク…… まるで地獄か悪夢を見ている様だ」 ブルータス少尉の言葉に、やはり少尉も人間なのだと再認識した 「死の世界。 そんな言葉が似合う光景ですよ」 俺の言葉に、少尉は苦笑いしていた。
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