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「先生!」
授業が終わり、職員室へ向かわんとする先生を、背中から呼び止めた。どうしても知りたいことがあったのだ。
「有本の具合、本当はどうなんだ? 本当は、想像するより、ずっと酷いんだろう?」
「笠原くん。それは僕にもわからないんだ。そう、わからない。本当、こんなことを生徒に言うのはあれだけど、医者だって、何の診断も出来ないくらい、重たい病気だったんだ。」
それから、有本は休みがちだったが、学校にはなんとか通ってきていた。しかし、教室に何かどんより暗い空気を落として帰ることもあった。授業中、発作を起こすことはなかった。しかし、しょっちゅう薬を飲んだり、トイレに血を吐きにいったりと、病気を思わせる幾つかの症状は、誰にも隠せてはいなかった。
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移動教室。おれたちは長野県の温泉村に宿泊した。おれは迷わず有本と同じ部屋を選んだ。これが最後の思い出になる、とは考えたくはなかったが、それは実際事実だった。病気が有本を何処かに拐ってゆく。有本が向かうわけでもないのに。……
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