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「おお、おまえは誰だっけ?」  入った途端、声をかけられる。恐る恐る声の主を見あげると、全然知らないような人がいた。もし宴会の場を間違えていたら、赤っ恥だった。 「もしかして、笠原か?」  今度は別の人に声をかけられる。その顔に、ピンときた。 「ああ、ナッツか! 久し振りぃ」  おれはそして次々に名前を言い当てた。松澤、高松、三浦、麻野、そして吉野さん。吉野さんとは移動教室の後、ずっと付き合って、それは高校まで続いた。有本の言った通り、吉野さんはおれに静かに想いを寄せていたという。手紙を書いて告白。OKの返事。心踊ったデートの数々。将来を約束したものの、いつの間にかすれ違ってしまった。 「吉野さん、久し振り。」  おれが声をかけると、吉野さんはおれの顔を見、一瞬驚いたかと思うと、頬を赤らめた。吉野さんはモデルのような顔立ちで、化粧はしてあったものの、肌は見た感じなめらかだった。未だ変わらないのは口元のほくろだ。
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