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「わたしたちも、そんな時代があったのよね。」  吉野さんは周囲のボリュームに負けまいと殆んど叫ぶように喋った。周囲がだす音は笑い声か馬鹿話だった。 「おれな、おれな、夜目が覚めたら、天井に顔が見えたんだ。女の顔だよ。」  太った奴が言っているのが聞こえる。 「んなの妄想じゃねぇか。」  それに別の奴がつっこむ。 「うるせぇ、違う。んで、うわ、おれ疲れてんなあ、て思って目を閉じたんだ。そん時は結構大変だったからな。んで、また目を開けてみると、なんと! 女の顔がおれの顔の近くにあったんだ!」 「やれ、そこでキスだ! ファーストキスは幽霊とだ。」  また別な奴が言う。おれはこんな会話を耳に入れると、段々馬鹿らしくなってきて、感想を吉野さんに言いたくなった。 「ガハガハうるさいな。小学校の頃と変わってやしない。」 「そう? 皆ちゃんと大人になってるよ。」 「あ、ところで吉野さんは何やってるの?」 「恥ずかしいけど、保育士。」 「おお、じゃあおれたち一緒に教育者で頑張っていかないか? ほら、世間は婚活だの何だの騒いでいるじゃないか。」 「……。」  黙り込む吉野さん。おれの顔をちらりと確認した。困惑するその顔もやはり美しかった。 「……そうだ、今度どっかでまた会いましょうよ。」 「本当? じゃあ、メアド教えてよ。日程決まったら連絡するから。」
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