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「やっぱりなぁ…変だ」
魏延が雲を示す。蔡仲もそれを見上げた。不思議なことに、雲は蔡瑁たちの陣に向かって全て流れ、成長しているのだ。
「本当だ。変だな」
蔡仲も同意した。魏延は更に敵陣の方へ歩んでいく。まだ見付からないであろうが、そうはいっても魏延は目的を忘れ興奮してくるのを感じた。
そう、この高揚。
これがあればあとは望むものはない。
「魏延、これ以上はまずい」
「まだ見付からないだろ。なんでこんなことになってんのか、理由が知りたいな」
「……」
蔡仲はしばらく考えていたが、やがて言った。
「叔母…蔡夫人が、いつか言っていたよ。風を操る導師が、昔にいたって」
「黄巾のやつらか」
「多分ね。俺はよく知らない、まだ小さかったから」
「俺もだ。居合わせたかったな、そりゃ」
二人は微笑をかわしたが、内心は穏やかならざるものを感じていた。そんな導師がいるなら、こっちは不利になる。
「まさかとは、思うけど……もしそうなら、早く叔父上に報告しないと!」
「甘い甘い。あの堅物が俺らの幻想的推測なんぞ信じないって」
そう言いながら歩いていたところ、警戒を怠っていた二人の前に、突如軍馬が踊り出た。
いや、それは語弊がある。蔡仲は本当に警戒を怠っただろうが、魏延は知りながら無視したのだ。
「わ!敵!?」
「む、貴様ら何者だ!」
相手も驚いたと見える。後ろからさらに数騎の軍馬が追い付いた。
「張羨様、どうされました」
「いや、不審な二人を見付けてな」
その会話を聞いていた蔡仲が、目を見開く。
「張…羨!?」
魏延は対照的に、くすくす笑った。
「いい獲物じゃねーか。嵐が来る前に敵の総大将倒すって案は、如何?」
「あー!!魏延、知ってて黙ってたなぁ!!魏延は喧嘩っ早すぎるんだよーっ!」
「うるせえ」
「あー!!魏延を見張るつもりで来たのに!!このがキー!!」
「残念だったな、ここからは一蓮托生の大バトルだ」
魏延は真新しい剣を抜いて、構えた。その銀の光が陽光に照らされる様を、彼は愛していた。
張羨は二人に斬りかかりかけた兵士たちを止めると、軍馬を近付ける。
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